『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト : 地域人材育成の教育社会学』 
明石書店, 2018, ISBN: 9784750346533.
樋田大二郎, 樋田有一郎

研究会が取り組んできた高校魅力化プロジェクトについての研究成果の中間とりまとめを書籍にしました。島根県の高校魅力化の初期から近年に至るまでの状況を紹介しています。

本の目次

地域存続の生命線であり、地域活性化の最前線でもある高校魅力化とはどんな取組なのか。本書は、少子化・過疎化が進む現代日本において「当事者意識」「社会関係資本」「地域内よそ者の育成」に着目し、地域×教育の新たな可能性を理解するための枠組みを提示する。

序章 高校魅力化の魅力
  1 地元での起業と地元企業を育てる
  2 当事者意識(自分たちごと、自分ごと、みんなごとの意識)を育てる
  3 地域内よそ者
  4 社会関係資本の形成
  5 地域の特色を活かした教育と「地域内よそ者」の育成
第1章 人口減少社会における地域活性化と高校魅力化の課題
 第1節 最先端であることに覚醒して魅力化する高校
  1 振り向かなければ最後尾、振り向けば最先端
  2 高校統廃合をめぐる議論
  3 高校を考える新しい視点
  4 サクラマス・ドリーム・プログラム(Uターン促進教育プログラム)
  5 スモールビジネスの積極的意義
 第2節 自立分散型社会化と地域人材育成
  1 マンパワー政策の時代
  2 グローバル・リーダーと科学技術振興人材の育成
  3 地域人材育成
 第3節 町活性化の最前線としての高校魅力化
  1 横田高校の役割の変化
  2 地域の高校の使命――横田高校の事例から考える
第2章 地方高校の人材育成と島根県高校魅力化の歴史
 第1節 地方郡部の地域人材育成研究小史
  1 Aさんのこと――高校進学者が増加した頃の高校進学の意味
  2 地方郡部の地域人材育成研究のまなざし
  3 都市流出促進の不合理と危険の告発
 第2節 島根県の高校魅力化小史
  1 隠岐島前高校の魅力化
  2 横田高校のキャリア教育
  3 高校魅力化の伏流
第3章 高校魅力化の取り組みの実際
 第1節 魅力化の高校の取り組み
  1 島根県離島・中山間地域の「魅力化事業」の概要
  2 横田高校の「奥出雲学」、「地域課題研究」、「だんだんカンパニー」
  3 隠岐島前高校の「地域学」
  4 吉賀高校の「サクラマス・ドリーム・プログラム」
 第2節 魅力化の高校が行うアクティブ・ラーニング――地域課題解決型学習の理論
  1 地域課題の発掘から最適解の選択までの主体的・対話的で深い学習過程
  2 多様な授業改革の動向
  3 課題解決型学習
  4 地域課題解決型学習
 第3節 コーディネーターの教育方法学
  1 橋渡しの機能から見るコーディネーターの役割
  2 コーディネーターの役割
  3 コーディネーター機能の類型化
  4 コーディネーターの分担と協働
第4章 高校魅力化が目指す生徒像
 第1節 当事者性を深める
  1 高校魅力化と学校知・学力観の変容
  2 地域課題解決型学習と当事者性
  3 結語――連続すること、対話すること
 第2節 「地域内よそ者」を育てる
  1 地方郡部と都市との関係の再編――地域の自己責任と自立
  2 グローカルな関係
  3 地方の多様性と未分化性――重層的アプローチの必要性
  4 「よそ者」の機能
  5 「地域内よそ者」が機能する条件
  6 「地域内よそ者」の教育――島根県離島・中山間地域の高校の事例を中心に
  7 結語
 第3節 社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を形成する
  1 離島・中山間地域の高校教育と社会関係資本
  2 社会関係資本を捉える三つの観点
  3 高校魅力化と社会関係資本の育成
  4 社会関係資本の要素とその効用
  5 社会関係資本の地域活性化(地域経済資本蓄積)への効用
  6 高校魅力化と社会関係資本――地域人材育成の観点からの整理
  7 結語
第5章 高校魅力化の統計学
 第1節 魅力化の高校生の社会関係資本形成の研究
  1 離島・中山間地域の社会関係資本
  2 地域の主体性と社会関係資本
  3 地域人材育成における社会関係資本の理論
  4 社会関係資本の分析結果
  5 まとめと議論
 第2節 地方郡部(離島・中山間地域)の高校生の地域移動志向の研究
  1 はじめに
  2 調査対象の位置づけと調査の概要
  3 分析
  4 結語
補章 魅力化の現場の教師として――魅力化の高校に勤務するお二人の先生からのご寄稿
  1 魅力化校に赴任して
  2 「小さい学校で大きな喜びを!」――高校魅力化・活性化事業に取り組んで

文献一覧
あとがき

いただいた書評、図書紹介

『教育学研究』

「高校魅力化」といえば、島根県立隠岐島前高校の名が思い浮かぶ。同校の実践は、高校教育関係者のみならず多くの人の注目するところである。本書は、同校も含めた8つの高校で実施されている島根県「高校魅力化・活性化事業(以下、魅力化事業)」とそこで展開されている実践を対象に、事業・実践がどのような人材をどのように育てようとしているのかを解き明かしたものである。本書を貫くのはこの事業・実践が、学校統廃合 が取り沙汰される過疎化した“後進地域”の事業・実践であるように見えながら、実はそれが “先進地域の事業・実践であるという見方である。魅力化の事業・実践では、地域の活性化を担う「地域人材育成」が目指されている。日本の社会、そして高校教育は、地域・地方を脱して都市・中央に生きる人材の育成に基軸を置いてきた。しかし、グローカルと言われるように、地域・地方は都市・中央を介さずとも世界と直接、結ばれつつ ある。地域・地方の特性を踏まえ、モノや文化・情報を都市・中央、そして世界に発信しつつある。そうした現状を踏まえると、地域・地方に生きる 人材の育成は、“時代の最先端”の取り組みである。魅力化の事業・実践は、それが“先進地域”の事業・実践であることに気づくなかで行われている。そしてそこに、わが国の高校教育のあり方を問い直す契機が潜んでいる。・・・中略・・・ただ、それは本書の欠点ではない。理念は理想である。冒頭でも述べたように、著者は魅力化の事業・実践を、“先進地域”における“時代の最先端”の取り組みとして位置づけている。そうした取り組みにアプローチすることでわが国の高校教育を考える新たな視点を得ようとしている。本書は、「高校魅力化」へのアプローチであると同時に、これまで理想とされてきた高校教育の在り方とは別の理想に基づく高校教育の在り方へのアプローチでもある。本書は、そのように読み解ける。

飯田浩之. 2019. “樋田大二郎・樋田有一郎 著『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト 地域人材育成の教育社会学』.” 教育学研究 86(1):113–114.

『月刊高校教育』

これまでの地方郡部の教育に対する「通説」は、次の通りであった。すなわち、意識・能力の高い教員によって行われる特徴的な教育実践は単発に終わり、結果として教員の異動によりその実践は消える。
また、教育の成果が上がれば上がるほど、優秀な生徒は地元を去って行く。そしてこの傾向に拍車をかけたのが、人口減少社会の到来である。そこには、どんなに高校が魅力的になっても、生徒数が減少した場合、学校統廃合の判断をせざるを得ないという暗黙の了解が見え隠れする。ところが、その判断は日本社会の「最適解」なのであろうか。
本書は教育社会学の方法論によって、島根県の離島・中山間地域における高校魅力化プロジェクトを「地域人材育成」の観点から分析したものである。

・・・離島・中山間地域の高校は、地域の衰退を防ぐ生命線であると同時に、住民自身も生徒を育てる中で能動化していく地域活性化を促進する最前線である。

・・・こうした生徒の当事者性や「域内よそ者」 性を育成する教育は、もはや離島・中山間地域の専売特許ではなく、高校教育全体の共通課題となりつつある 。

荒井英治郎. 2018. “今月の書評 『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト』.” 月刊高校教育 51(10)9月号:102.

『日本学習社会学会年報』

本書は、少子・人口減少が学校教育に及ぼす影 響という全国各地での深刻な教育問題に対して、島根県の離島・中山間地域の県立高校での高校魅力化の取組と地域の社会問題に対する活性化事業との連動した行政施策の展開に注目し、現地での訪問聞き取り調査と収集した関係資料をデータに地域人材育成の教育社会学の視点から考察を加えてまとめられた意欲作である。・・・中略・・・最後に、本書で紹介された研究の成果は、少 子・人口減少が進む今日において、これからの公立高校とその所在する地域社会の在り方に着目し、全国各地での高校の統廃合問題が論議されている中で、高校の魅力化と地域活性化に果たす役割について、教育社会学の立場から考察したものとして注目できる。他県での県外生募集も広まる 中で、今後の島根県での取組の持続と成果が待たれるところであり、さらなる筆者による追跡と考察を期待するものである。高校教育そして教育行政に携わる方のみならず、少子・人口減少が進む中での今後の教育や学校の在り方等について考察し、また先進的な公立高校や教育行政の取組に関心のある方、理解を深めたい方に、高校教育に関する秀逸な教育書として、本書の一読をお薦めしたい。

梶輝行. 2018. “書評「樋田大二郎・樋田有一郎著『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト 地域人材育成の教育社会学』(明石書店、2018年刊)」.” 日本学習社会学会年報 (14):110–112.

『青少年問題』

【教育資源の豊富さ】ともすると大人は子どもを学歴競争に追い込む。追い込まないことは無責任だとさえ信じている。しかし本書の調査対象である島根県の離島中山間地域では、学歴主義的競争に囚われていない教師や親が多い。彼らは自分たちの町には自然や人間関係が豊かであること、小さい学校ゆえの親密さと機動性があること、生徒も教師も地域の大人もそれぞれが現在進行形で未来に向かってチャレンジしていること等、のアドバンテージがあることに気づいたのだ。サクラマス・ドリーム・プロジェクト、高校魅力化プロジェクトなど、高校ごとに様々な名前で呼ばれ、様々に取り組まれる「地域の特色を生かした教育(=地域課題解決型学習)」が行われている。生徒は人口減少や少子高齢化、地域創生という日本の最先端の社会問題を学んでいる。
【大企業に搾取されない】島根県の「地域の特色を生かした教育」による高校魅力化では、「大都市の高校に飽き足らない」意欲的な生徒が島根留学に押しかける。授業を通して高校生は町に貢献する町民と出会い、自分が地域社会活性化の当事者であることに覚醒する。また、地域には何も無いのではなくて大量生産に適した資源がないだけであること、地域には六次産業創生に必要な地域資源が十分にあることを知る。さらに、むやみに企業誘致すると町が大都市や海外の企業に隷属し搾取されるという怖さを知り、地域の視点から経営を行い地域を豊かにする産業の創生を志すようになる。

樋田大二郎. 2018. “自著を語る『人口減少社会と高校魅力化プロジェクト――地域人材育成の教育社会学』.” 青少年問題 (672).

リンク

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