研究会では高校魅力化(教育魅力化)プロジェクトについての研究蓄積を行ってきました。

高校魅力化とは学校と地域が相互に資源を利活用して相互に活性化する教育改革です。地域人材育成、地域活性化、学校統廃合回避、定住促進、関係人口創出、アクティブラーニング、個別最適化された学びなどの多面性を持っています。

高校魅力化で注目される高校が地域活性化に果たす役割について下記で解説しています。

高校魅力化の可能性

条件不利高校から条件有利高校へ

地方郡部の高校には様々な不利がある。塾や予備校での補助的な学習に頼れない、学級内に多様な生徒がいる、成績優秀な中学生が町外に進学する傾向がある、教員数が少なくセンター試験の全教科の授業が行えない、部活動の種類が制限され部員数も少ない、などの不利である。

公立高校学校数推移

地方郡部の高校の中には、“条件不利高校”が廃校になることへのあきらめが芽生えがちである。実際、1990年には4177校あった公立高校(全日制と定時制)が2018年には3559校となった。618校の減少であり、地方郡部での統廃合が多いことが想像される(『平成30年度学校基本調査』)。また、読売新聞社の独自調査によると、公立全日制高校の4割が定員割れしており、郡部や工業系、農業系の高校などが目立つという(2018年11月4日朝刊)。こうした動向を目にすると、廃校へのあきらめが芽生えるのはやむを得ない。

しかし、諦めない高校もある。島根県の離島・中山間地域(地方郡部)では、廃校の危機にある高校が自分の高校の無いもの探し(=条件不利探し)ではなく、有るもの探し(=条件有利探し)を行い、様々な“条件有利”を発見した。

地方郡部には「人口」は少ないが「人交」が多いこと、地域ぐるみで高校生を支えること、小さい学校だから生徒が大切にされ、役割があること、生徒に多様性があること、地域社会に開かれた学校であることなどの“条件有利”が発見されている。

未来志向の魅力化の台頭

高校魅力化を自称しない高校もアクティブ・ラーニングや探究学習の導入、SSH、SGH、国際バカロレア認定校など、様々な方法で“魅力的”になっている。それらの高校と魅力化を自称する高校はどこが違うのだろうか。

高校魅力化校の共通点は、目標が文字通り生徒が魅力を感じる高校を創ることである。また、それを実現する方法は、教育寮(県外生募集)、高校連携型の公立学習塾、地域の特色を生かした教育、地域との協働、コーディネーター(地域学校協働活動推進員)の導入、地域コンソーシアムの設置などである。

本稿では、こうした目標と方法の背後にある魅力化の特徴を、島根県の高校魅力化の歴史を参考にして検討したい。

2011年度開始の「島根県離島・中山間地域の高校魅力化・活性化事業」の第Ⅰステージに参加したのは8校であった。

魅力化の原8校は地方郡部の高校であり、生徒数減少への対策、伸び悩むキャリア教育の向上、深刻化した不登校や中退への対策、過疎化から地域を救う人材育成、などの課題を抱えていた。原8校の課題は、島根県の高校魅力化の特徴となった。そして、県外生にとって魅力的で分かり易い高校生活、内発的動機づけや自己決定感に基づく学習動機付け、郷土愛の深化、地域貢献意識や地域当事者意識の育成、地域課題解決型学習、将来のUターン準備教育、学校地域協働などの取り組みが開発された。

原8校の取り組みの特徴は、島根県の「県立高校魅力化ビジョン」の中で次のように表現されている。

◇豊かな自然、歴史・伝統、文化といった地域それぞれの魅力や教育資源(ひと・もの・こと)を生かす、地域社会に関かれた高校づくりです。
◇少人数ならではのメリットを生かし、生徒一人一人の魅力や個性を伸ばし、自己実現を支援する、主体性と多様性を尊重する高校づくりです。
◇温かな人のつながりや勤勉で粘り強い県民性を生かし、生徒も大人も共に学び続ける、対話的・探究的な高校づくりです。

島根県教育委員会『県立高校魅力化ビジョン』(平成31年2月)

このように、島根県では、それぞれの地域の魅力や教育資源、少人数ならではのメリット、県民性などを県教委の文書で例示するに至っている。

高校魅力化を先進事例として

条件不利の中にあっても学校存続を諦めず、地域社会の課題に対して開かれようとした時に、高校魅力化が広まった。地域活性化が高校の使命に加わって高校は負担と可能性を与えられたが、現時点では負担を訴える者よりも可能性を語る者のほうが多いように思う。

高校魅力化では、「受験に対して開かれた教育課程」や「普遍的教養に対して開かれた普遍的教育課程」とは異なる「社会に開かれた教育課程」が胎動している。学校と地域が協働し始め、センター試験に代表される「与えられた課題の唯一解探し」は「課題発見と最適解を実践する学習(問いと幸福探し)」に席をゆずりつつある。また、本稿が取り上げた社会関係資本や地域内よそ者性、当事者意識など、従来は知識伝達と技能付与の陰で潜在的であった教育課題が顕在化してきた。

高校魅力化は、もはや一部の高校の高校存続目的の特殊で例外的な取り組みではなく、普通教育の意義と今後を考えるための先進事例となっている。

※この文は

樋田, 大二郎: 「高校魅力化」の可能性: 他山の石として魅力化の魅力と力を考える. In: 月刊高校教育, 52 (9), pp. 28–31, 2019.
に加筆修正したものである。